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2024.08.15
おだりょうこ

市場規模拡大のカギは既存サービスとシェアリングエコノミーの共存【世界のシェアリングエコノミーに学ぶ・アメリカ編】

モノ、場所、乗り物など、みんなで使うものを公助ではなく、「共助」で解決する試みを「シェアリングシティ」と呼びます。いまや世界中で広がりをみせているライドシェア「Uber」が誕生したアメリカ・サンフランシスコ市はいち早くシェアリングシティに取り組み、シェアリングエコノミーはもはや特別なものではなく、日常のあらゆるシーンで活用されています。

そこで今回は、アメリカのシェアリングエコノミーの現状や、注目のサービスを紹介。シェアリングシティに暮らす人々の声とともに、その可能性をひも解いてみましょう。

リーマンショック後に急増。アメリカのシェアリングエコノミーの実情

空港から市内までの移動はライドシェア、宿泊先は民泊。既存のタクシーやホテルに加え、移動手段や宿泊の選択肢が増えているアメリカでは、シェアリングエコノミーが日常に根付いています。既存サービスを脅かすほど人気が高まっているのは、タクシーやホテルよりも高品質でかつ安価であることが最大の理由です。

 

アメリカのシェアリングエコノミーが開花したのはリーマンショックがあった2008年以降のこと。そのきっかけになったのがサンフランシスコ発祥のライドシェアサービス「Uber」です。以降、ホームシェアの「Airbnb」や引っ越しや掃除などの仕事をシェアする「TaskRabbi」、シェアリングエコノミー情報のプラットフォーム「Shareable」など、シェアリングエコノミー事業を展開するスタートアップが続々と誕生しました。

 

勢いに乗るアメリカのシェアリングエコノミーは、今後、ますますの拡大が予想され、その市場規模は2025年までに約40兆円に達すると予想されています。

提供者と利用者のスムーズなマッチングを実現したデジタルプラットフォーム

アメリカでシェアリングエコノミー企業が続々と生まれた背景は、既存サービスに不満を持つ人たちが、自ら新たなビジネスモデルを立ち上げたことが考えられます。そのカギとなるのがITを活用したデジタルプラットフォームです。

 

“いつ、だれが、どこで、なにを提供できるのか、なにを探しているのか”を、スマホアプリやWeb上で共有することで、提供者と利用者のマッチングが容易にできるようになったことは成長の大きな要因です。シェアリング企業の多くはITベンチャーが集まるカリフォルニア州で誕生していることからも、デジタルプラットフォームがシェアリングエコノミーを加速させた最大の要因であることがうかがえます。

急成長の背景にある行政のバックアップ

アメリカにおけるシェアリング企業の躍進には、行政のバックアップも関係しています。代表的なシェアリングシティ・サンフランシスコ市は、2012年に市の財政、教育、環境などの行政部門と市内のシェアリング企業が協力し、シェアリングサービスの障害となる法規制の改正を検討するシェアリングエコノミー・ワーキンググループを設置。翌年には全米市長会議でシェアリングエコノミー推進が承認されました。近年は大手シェアリング企業だけではなく、地域性を活かしたローカルな取り組みも増えています。

アメリカの代表的なシェアリング・エコノミー

シェアリングエコノミー発祥の地とされるアメリカでは、これまでにさまざまなシェアリングサービスが誕生しています。代表的なサービスとSNSに寄せられた利用者の声を紹介します。

ライドシェア

アメリカではサンフランシスコ市を中心に、通勤バスをシェアするライドシェアやオンデマンド配車サービスを提供する「Uber」「Lyft」などが広く受け入れられています。

 

また、公共の交通機関が脆弱な地域では、経路沿いで同じ方向に行く人同士をマッチング、2〜3人で車をシェアできる「UberPOOL」も人気です。

 

SNSでの利用者の声

・電車やバスの本数が少なかったり、タクシーがつかまりにくかったりするときは、よほどの長距離でない限りはUberやLyftを使っている

・車の他、最近ではレンタサイクルも活用している。年間88ドルで利用できるので、カーシェアよりもお得感がある

 

■Uber

https://www.uber.com/jp/ja/

■Lyft

https://www.lyft.com/

■UberPOOL

https://www.uber.com/au/en/ride/uberpool/

宿泊施設

 

個人の住宅や施設を宿泊施設として貸し出すサンフランシスコ発祥の「Airbnb」は現在、220以上の国と地域で展開する、日本でも知名度の高いシェアリングエコノミーです。

 

一方、旅行者が無償で情報交換や、泊めてもらう互助的サービスを提供するのが「Couchsurfing」です。全世界で利用される旅行者向けのコミュニティサイトとなっており、 旅行先で現地の人に会ったり、その人の家に滞在したり、現地のイベントに参加したりできるのが特徴です。 現在では20万の都市を結び、1,200万人のメンバーが利用。55万回のイベントが開催されています。

 

SNSでの利用者の声

・下手な安いホテルに泊まるくらいなら断然Airbnb。居心地が良い空間を1泊5千円以下で借りられるのが魅力

・一般家庭に泊まることでリアルな文化を体験できる(Airbnb)

・ホストによっては案内に付き添ってくれたり、一緒にご飯を食べたりなど親睦を深めることができる(Couchsurfing)

 

■Airbnb

https://www.airbnb.jp/

■Couchsurfing

https://www.couchsurfing.com/

知識、スキル、労働力

スタートアップ精神と自由競争、自己責任を重んじるカルチャーが根付くアメリカでは、知識やスキル、労働力を提供するシェアリングサービスも人気です。

 

代表的なのは家事やDIY、犬の散歩など、日常的な雑用のマッチングサイト「TaskRabbit」、スキルや知識のあるフリーランスと雇用者をつなげる「Upwork」、子供、シニアなどのケアに特化した「Care.com」など。

 

SNSでの利用者の声

・IKEAで購入した家具を組み立ててもらった。ひとり暮らしにうれしいサービス(TaskRabbit)

・小さな案件からスタートでき、徐々にステップアップ。高レビューが付けば次の仕事につながる(Upwork)

・介護者のバックグラウンドを事前にしっかりチェックできたので、安心して母の介護をお願いできた(Care.com)

 

■TaskRabbit

https://www.taskrabbit.com/

■Upwork

https://www.upwork.com/

■Care.com

https://www.care.com/

注目はペット預かりサービス「DogVacay」

世界有数のペット大国・アメリカならではの注目のサービスを紹介しましょう。その名も「DogVacay」。

 

日本ほど、ペットホテルにペットを預ける文化が浸透していないアメリカでは、長期の旅行などで家を留守にする際、ペットの預かり手を探すのはとても難しいとされています。そこで誕生したのがペットの預かり手と預け手をマッチングする「DogVacay」です。登録ペットシッターは2万人を超え、既に数百万件のマッチング実績があることからも、同社のサービスがいかにニーズにマッチしているかがわかります。

ウェブサイトやアプリに自宅の郵便番号を入力すると、最寄りの預かり手が表示され、その家の環境や設備、これまでの評価、価格などの情報を確認することができます。ペットホテルのような狭いゲージではなく、部屋のなかで愛情を持って世話をしてくれる点が高く評価されています。

 

また、DogVacayにペットシッターとして登録するためには厳格な書類審査、教育用ビデオの視聴、試験の合格、面接などをクリアする必要があります。この厳格さも支持される理由です。

 

SNSでの利用者の声

・留守中、毎日スマホに送られてくる愛犬の写真。安心して旅行を楽しむことができた

・実績のあるペットシッターは、我が子のように愛犬を可愛がってくれた

・ペットシッターは登録後も定期的なトレーニングを受けるなど、その厳格さが信頼に値する

 

■DogVacay

https://dogvacay.com/

課題は既存サービスとの共存

優れたビジネスモデルに加え、サステナブルの観点から見ても今後の躍進が予想されるアメリカのシェアリングエコノミー市場。しかし、その陰で既存のサービスは悲鳴を上げているのも事実です。サンフランシスコ最大のタクシー会社、イエローキャブは、UberやLyftの台頭によって2016年に破産に追い込まれてしまいました。

 

シェアリングエコノミーが支持される理由は、既存サービスより高品質かつ、安価であることは冒頭でも説明しましたが、それを支えているのが提供者と利用者を互いに評価し合う仕組みです。Uberでは、評価点数が基準値を下回ると利用できなくなるため、サービスの質がタクシーよりも総じて高くなるのも納得です。

排除ではなく、受け入れることで市場規模拡大を狙うのがアメリカ流

シェアリングエコノミーの相互評価はライドシェアに限らず、あらゆる業界のサービスの本質を問うきっかけになっています。提供サービスの内容が重なる部分がありつつも、共存することで全体の市場規模は大きくなるという考えが、アメリカのシェアリングエコノミーを後押ししていると言えるでしょう。

 

イエローキャブが破産したように、シェアリングエコノミーは既存ビジネスの破壊者として槍玉に挙げられることが多いのも事実ですが、利用者側の強いニーズがあるため、アメリカでは排除よりも受け入れる流れにあるのが実情のようです。アメリカでビジネスとして開花したシェアリングエコノミーは、今後さらに成長し、ビジネスシーンを席巻することでしょう。

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