「知らない世界の扉を開けるときのわくわく感がたまらなく好きなんです」
そう話してくれたのは、俳優・小島万智子さんです。もし、人の生き方を「静」と「動」に二分するとしたら、小島さんはきっと「動」の人。演じること、歌うことに情熱を燃やす小島さんの暮らしには、何事にもとらわれない、さわやかな風が吹き抜けていました。
小島万智子さん(30代、女性)
職業:俳優、タクシードライバー
住まい:シェアハウス
借りたもの:冷蔵庫、電子レンジ、ベッド
ひとり暮らし、ルームシェア(一戸建て)、再びひとり暮らし、シェアハウス。これは、地元の大学を卒業後、21歳で上京した小島さんの住まい遍歴です。俳優、歌手として活動をする小島さんは、動き続けることで前に進み続けてきました。さまざまな住まいを経験した小島さんがなぜ、いま、シェアハウスを選んだのでしょう。
「住んでいた家が取り壊しになることが決まり、退去せざるを得なかったことが一番の理由です。どうせ引っ越すなら、気兼ねなくセリフの練習やボイストレーニングができる防音設備がある物件がいいなと思ったのですが、家賃が高いこと!探しているうちに防音室があるシェアハウスを見つけました。ルームシェアの経験があるので、キッチンやバスルームを共有で使うことに抵抗はなかったし、何より家賃が魅力でした」
ベッドルームの個室と共有スペースとしてキッチン、バスルーム、シャワールーム、シアタールーム、レクリエーションルーム、ワーキングスペースなどを有するシェアハウスが現在の小島さんの住まい。暮らしに必要な家具と家電はレンタルを選んだそうです。
「ベッドと冷蔵庫、電子レンジをレンタルしています。初めてのひとり暮らしのときは家具も家電も新しく買いそろえ、ルームシェアをしていた一戸建てにも持っていったのですが、人の出入りが激しかったこともあり、どの家電がだれのもので、どこに行ったのかわからなくなってしまったことがありました。
ルームシェアを解消してひとり暮らしをする際、残った家電をフリマサイトを利用して処分したのですが、これがなかなか大変で…。その経験もあって、次の住まいはどんな形態であっても家具と家電はレンタルすることに決めました」
ひとつ前のひとり暮らし時代から家具・家電レンタルを利用している小島さんですが、レンタル期間によっては購入した方が安く済むこともあるのではないでしょうか。
「レンタル期間が長くなると、結果的に購入した方が安かったということはあります。でも、ランニングコスト以上に魅力なのは、不要になったときにすぐに手放すことができる身軽さです。電話一本で回収にきてくれるので、自分で処分する煩わしさがありません。
ひとつのところに留まるのではなく、常に動いていたいわたしにとって、家具も家電も住まいも所有しない生き方は、とても身軽なんです」
モノを所有することよりも、身軽さを選んだ小島さん。シェアハウスや家具・家電のレンタルはまさにベストな選択だったというわけですね。
そんな小島さんには俳優・歌手の他にもうひとつの顔があります。それは、“タクシードライバー”です。
小島さんがタクシードライバーに転職したのは約3ヶ月前のこと。以前はフリーランスのPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として、IT関連を中心に、プロジェクト全体の管理や必要な資金・人材などのリソースの調整、関係部署間のすり合わせなどを行っていました。
「わたしにとって俳優業や歌手活動以外の仕事はあくまで生活のための手段。PMOの仕事は収入面で安定こそしていましたが、プロジェクトの内容によってはとても忙しく、俳優業に支障が出ることもありました。ちょうど担当していたプロジェクトが切り替わるタイミングだったこともあり、もっと時間をフレキシブルに使える仕事を探すことに。そんなときに出会った仕事がタクシードライバーです」
出会いのきっかけは、俳優業をしながらタクシードライバーをやっていた仲間の存在だったと小島さんは言葉を続けます。
「俳優仲間のなかで唯一、困窮している雰囲気がない人だったので(笑)、タクシードライバーの仕事について聞いてみたんです。完全歩合制の月11日程度の乗務で、月収30万円という話を聞き、それなら俳優業や歌手活動にも十分時間を割くことができると思い、飛び込むことにしました。
タクシー業界は1日が2日に換算されるため、決して効率の良い仕事とは言えません。でも、乗務時間、場所などを自分で決めることができるのは、俳優業を続けるうえでとても魅力でした。シェアハウスや家具・家電のレンタルと同じように、生活のための仕事選びも、身軽であることが軸になっているのかもしれません」
小島さんが俳優業や歌手活動以外の仕事をするのは、生活費を稼ぐほかにもうひとつ理由があります。それは、“応援団”をつくることです。
「俳優業以外の人と知り合うことで、ファンと言えば大袈裟ですが、活動を後押ししてくれる応援団をつくることができます。わたしが出演する芝居や映像作品を見てくれたり、リリースしたアルバムを聴いてくれたり、つながりが生まれることがとてもうれしい。タクシードライバーになったことでその可能性はより広がったように感じます」
“いろいろな乗客と出会うことは、舞台に立つことによく似ている”と小島さんは教えてくれました。
「同じ演目、同じセリフだとしても、わたしたち演者にとってはひとつとして同じものはありません。自分自身や共演者の体調、間の取り方、お客様の雰囲気も毎日異なります。その違いを楽しめることが、演じる面白さだと思います。
タクシードライバーとお客さんとの出会いも舞台同様に、ほとんどが一期一会。先輩からは『ちょっと風変わりなお客さんは必ずいるからね』と言われるのですが、その出会いを面白がれる自分でありたいと思っています」
タクシードライバーに転職するまでの約3ヶ月間、芝居以外のことは何もせずに過ごしたという小島さん。俳優である自分と、とことん向き合うことで、”芝居と歌が大好き”であることを、改めて実感したそうです。
「生活のために俳優以外の仕事をすることは逃げだと思っていたときがありました。でも、それは自分で自分の限界を決めていたに過ぎなかったんです。仕事をすることで俳優業にもっと情熱を注ぐことができることに気がつきました。3ヶ月間、芝居のことばかり考える時間を過ごしたことで、いいかげん、芝居が大好きな自分を認めよう、受け入れようと思えるようになりました。
モノを所有しないレンタルには、背負わない自由があります。例えば、この先住まいを変えたとしても、身ひとつで動くことができます。その身軽さは、俳優である自分と向き合うことにもつながっているようにも思えるんです」
停滞することのない、川の流れのように動き続ける俳優・小島万智子さんには、凛とした美しさと潔さが感じられます。そのしなやかな生き方は、シェアハウスやレンタルライフを選択することにも表れているのかもしれません。
Movin’on、movin’on(前へ、前へ)。
今日も小島さんは芝居への愛情と好奇心を携え、前に、前に進み続けていることでしょう。