海外にも愛好家のいる盆栽。インバウンド需要が高まる中、日本の伝統を守りながらも盆栽業界を改革しようと取り組んでいる企業があります。
それは、愛知県岡崎市にある盆栽大樹園。昭和9年創業と歴史ある老舗で、現在4代目の鈴木卓也さんが代表を務めています。建築・飲食業を経験した後に、婿養子として盆栽の世界に入った経歴を持つ鈴木さんは、盆栽の魅力を伝えるため続々と新しいことに取り組んでいます。
今回は、盆栽大樹園が盆栽レンタルを始めた経緯や盆栽の魅力について、鈴木さんにお話を伺いました。
INDEX
ーー現在の盆栽大樹園の事業内容を教えてください。
鈴木さん:盆栽の売買・手入れ・盆栽教室や、初心者向けのワークショップ、レンタルなどを行っています。昔は「旦那衆」と呼ばれる盆栽愛好家に「名木」に成りうる質の高い盆栽を購入してもらい、それを預かり代わりに育成管理して、完成に至った名木を展示会でお披露目することが主な事業でした。しかし、時代の流れとともにその形式もだんだん縮小していき、現在は売買がメイン事業になっています。
ーー時代の流れで形が変わってきたのですね。盆栽大樹園の特徴や強みはなんですか?
鈴木さん:昭和9年から続く歴史とブランドがあることですね。旦那衆を相手に事業を行えたのも、信頼があったから。「大樹園」という看板があるからこそ、名木を託してくれるお客様がいるんです。また、当園で修行を積み、独立した門下生が日本各地にいて、お互いに情報共有したり助け合ったりできるネットワークがあることも強みです。
ーー4代目である鈴木さんは、なぜ後を継ごうと思ったのですか?
鈴木さん:僕は建築業界の後、料理の世界にいました。でも、子どもが生まれたことをきっかけに、自分の人生を考え直したんです。料理の仕事はすごく好きだったのですが、土日の出勤も多く、家族との時間をなかなか持てませんでした。何を優先するかを考えたときに、盆栽だったら自宅で仕事ができて、家族との時間も確保できてよいと思ったんです。
ーーその当時は盆栽を学んでいなかったそうですね。それでも盆栽に興味が?
鈴木さん:はい。建築・料理・盆栽はどれも”ものづくり”。自分が想像したものを形にしていくという点が一緒で、僕の得意分野です。もともと凝り性ですし、盆栽もやったら絶対にハマるだろうと思っていました。そこで、チャレンジしようと意を決したのです。
ーー盆栽の世界に入ることを決めてからは、どのように学ばれたのでしょうか?
鈴木さん:まずは大樹園の2番弟子にあたる佐賀の鳥栖昭緑園に弟子入りし、1年間学びました。
ーーなんと、九州で修行されたんですね。
鈴木さん:はい。盆栽の修行は通常5年かけて行うものなのですが、修行を明けて帰ってきたら子供が5才になっていたなんて状況では元も子もありません。ただ、「いずれ親方の立場になる可能性もあるのだから弟子の気持ちを理解できるよう、少しでも外で飯を食ってこい」と3代目の義父から言われ、最初の1年間鳥栖でお世話になり、残りを大樹園で学ぶことになりました。
覚悟していったつもりでしたが、それでも初日の晩に親方から、「大樹園という看板の重みについて」や、「大親分にふさわしい人間にするために帝王学を叩き込む!」なんてと言われた時には何がどうなっているんだと困惑しましたね。
ーー帝王学はハードルが高いですね(笑)!
鈴木さん:その当時の僕は全然知らなかったのですが、盆栽大樹園は業界でも名門としてよく知られる園のひとつなんです。周りからも「大樹園の若が来た」なんて言われて(笑)。
ーー「若」ってすごいですね(笑)。
鈴木さん:そうですよね。当時は飲食で独立する目標があったので、結婚してからも盆栽に関する情報はあえてシャットアウトしていました。そのため、本当に何も知らずに盆栽屋さんになろうと決断したんです。もし知っていたら、たぶんこの業界に入る選択はしていなかったでしょうね(笑)。
ーーその後は大樹園に戻ってきて、お義父様のもとで学ばれたんですか?
鈴木さん:そうです。最初は言われるがまま、ただ作業をするという感じでした。盆栽のおもしろさがわかったのは、3年目くらいから。「あのときの手入れが、こういう結果になるのか」と盆栽を理解しはじめてから、どんどんハマりました。
ーー鈴木さんの思う盆栽の魅力はどんなところでしょうか?
鈴木さん:盆栽は設計図のないプラモデルを作っている感覚で取り組めて、楽しいです。同じ樹種でもやり方によって全然違うものになるので、奥深いですね。
ーー盆栽のレンタルサービスはいつ頃から始めたのでしょうか?
鈴木さん:以前から、行事や式典の際に貸し出すことはありました。きちんとサービスとして始めたのは約7~8年前からですね。
ーーサービスとしてレンタルに取り組まれたきっかけは何だったのでしょうか?
鈴木さん:旦那衆の話をしましたが、昔はそのような富裕層のお客様との取り引きがほとんどでした。そのため「一見さんお断り」「良いものを作っていれば勝手にお客様はついてくる」というスタンスだったんです。ですが、時代の変化とともに盆栽の愛好家は減り続け、新規の来園もごく僅かという実情を目の当たりにし、このままで20年、30年先も大丈夫なんだろうかという危機感がありました。
いい商品を出すのは当たり前、顧客満足度を第一に考え、新規集客とリピートをとっていくスタイルの飲食業界とは全く違うスタンスであることにも違和感を感じていました。
ーー他の業界から来た鈴木さんだからこそ抱いた危機感ですね。
鈴木さん:その通りです。外から来た人間だからこそ、業界の当たり前とは違うことが見えたり、やるべきことがあったりするはずだと思いました。それからは、お客様を増やすために、まずは盆栽を知ってもらおうと、SNSでの発信やブログ、メルマガなどを始めました。そして、盆栽を貸し出して、街中で当たり前に盆栽を見かける環境を作れたら、より多くの方に興味を持ってもらえるのではないかという思いでレンタル事業を本格化させてきました。
ーー新しいことを始める際の、周りからの反応はいかがでしたか?
鈴木さん:盆栽をたくさんの方に楽しんでもらうために様々な取り組みやイベントにチャレンジしてきましたが、ものによってはやっぱり周囲からの反発はありました。「そんなの、大樹園というブランドがやるべきじゃない」とかですね。でも、伝統という言葉を言い訳に変化を拒んでいては、そのうち時代に取り残されてしまいます。時流に合わせてチューニングし、変化を受け入れながらも大事なところは守り続ける。そんなふうに長く後世でも愛される文化にしていければと思っています。
ーー強い信念を感じます。
鈴木さん:とはいえ、大看板だからこそのメリットを享受している部分もあるんです。新しいことをやるときも「あの名門がやっているんだから大丈夫」と信頼につながりますし、説得力もありますから。
ーーレンタルはどのように使われているのでしょうか?
鈴木さん:レンタルは大きく2つのパターンがあって、開店祝いや式典などのスポット利用と、飲食店やホテルなどに長期で借りていただく場合があります。盆栽に興味を持ってもらいたいという思いでやっているので、展示会に出せるような高いレベルのものを提供しています。よい盆栽を飾ると、その空間の格が上がり、滞在した時間がより強く印象に残ります。来客に写真に撮っていただける機会も増え、広告宣伝効果につながると好評です。
ーー盆栽といえば「和の空間」ですよね。やはり和室に置いた方が良いのでしょうか?
鈴木さん:そんなことないんですよ!盆栽は、むしろ洋の洗練された空間の方がより引き立つんです。「うちは和室ないから」と言われることもあるのですが、空間やイメージに合わせた盆栽をご用意できます。盆栽にもいろいろな種類があるので、スタイリッシュな洋室にも、荘厳な和の雰囲気の場所でも、どんな空間にも合わせられます。海外からのお客様が来られる場所では特に喜ばれますね。
ーー洋の空間がより引き立って、めちゃくちゃかっこよいですね!レンタルの依頼がきたら、どのように盆栽を選ぶのでしょうか?
鈴木さん:大きさやイメージなどをおおまかにお聞きして、あとはお任せしてもらえることが多いです。
ーーそれなら、盆栽に詳しくない人でも利用しやすいですね。記憶に残るお客様はいますか?
鈴木さん:屋久島で出会ったカップルから、「屋外での結婚式の演出に杉の木を飾りたい」というご要望がありました。盆栽は屋外に飾る機会が少ないのですが、晴れの舞台に盆栽を選んでいただけたことはとてもうれしかったです。
ーー結婚式で思い出の木を飾るって素敵ですね!
鈴木さん:また、あるとき知人にラグジュアリーなホテルの2泊3日の貸切イベントに誘われ、宿泊者それぞれの提案でなんでもできるとのことでしたので。ホテルのいたるところに盆栽を飾りました。素晴らしい雰囲気のホテルだったので、飾りつけるのが楽しくてしょうがなかった事を覚えています。ホテルの方達は「こんなに上質な空間になるのか」と驚かれており、置いただけで空間が見違える盆栽の力を、感じていただけたようでした。
ーーお話を伺っていると自宅に盆栽を飾ってみたくなります。レンタルの際、盆栽の手入れはどのようにしたらよいのでしょうか?
鈴木さん:お客様には毎日の水やりだけお願いしています。長期レンタルの場合は2週間に1回盆栽の入れ替えを行いますので、水やり以外の手入れは不要です。
ーー盆栽を入れ替えてくれるのですね?
鈴木さん:はい。春だったら桜や梅、秋だったら紅葉やリンゴなど、その時期にもっとも美しさを誇る盆栽をご提供します。いつもの空間に四季を取り入れられるのはレンタルの魅力の一つですね。
盆栽は、年中ずっときれいな状態というわけではありません。成長の過程で葉が伸びたりと、どうしても飾って美しくない時期もあるんです。生育中のものは屋外で管理し、姿が整い美しい状態のものを入れ替えながら飾りつけるのが一般的なんですが、それって手間ですよね。そういう細かいことを考えず、手入れもいらず、その時期旬で美しいものを気軽に楽しめるのがレンタルのメリットです。
ーー知識がなくても盆栽を楽しめますね!では、SUUTAに期待していることは何でしょうか?
鈴木さん:いろいろな種類のものをレンタルできるプラットフォームに載せてもらうことで、盆栽に興味がない方の目にも留まると良いですね。「盆栽 レンタル」とインターネットで検索するのって、盆栽をレンタルしたい人だけなんですよ。だからなかなか一般の方に盆栽をレンタルできると知ってもらう機会がありません。でも、SUUTAなら、他のものをレンタルする際に、たまたま盆栽が目に入るという可能性がありますよね。それによって盆栽に興味を持ってもらい、借りることのハードルが少しでも下がり、たくさんの方に気軽に使っていただければうれしいです。
ーー最後に、利用者へのメッセージはありますか?
鈴木さん:とにかく一度実物を見ていただきたいですね。見れば盆栽の良さがわかってもらえる自信があります。ぜひ一度お試しください。
ーー鈴木さん、ありがとうございました。