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2025.02.19
SUUTAマガジン編集部

アーティストならではの空間提案。オフィスの絵画レンタルサービスの可能性

オフィスにアートを飾ることは、働く人々の心に不思議な力を与えるかもしれません。

Atelier Kinaの代表である佐藤 貴奈(さとう・きな)さんは、画家であると同時に、絵画のレンタル・サブスクリプションサービスを展開しています。オフィスに絵を貸し出す際は、会社のイメージや周辺環境まで丁寧にヒアリングをしてから、その場に適したアートを提案しています。「環境に溶け込むようなやさしい絵を描きたい」という佐藤さんの作品は、多くの人が行き交うオフィスに馴染むのかもしれません。

佐藤さんがどのようにアートの世界に入ったのか、Atelier Kinaを始めた背景や絵に対する思い、今後の展望についてお話を伺いました。

INDEX

パリでの滞在が、美術への思いを再確認するきっかけに

ーー絵を描き始めた経緯を教えてください。

佐藤さん:もともと絵が好きなタイプではなく、子どものころはゲームばかりしていました。ただ、祖父が趣味で絵を描いていて、絵具や画材道具が身近にある環境で育ちました。一緒に絵を描くことはありませんでしたが、今思えば暮らしのなかで絵と触れ合うことが多かったと思います。また、学校の美術の時間も好きでした。アイデアがたくさん浮かんで早く描き終わるタイプで、子どものころから美術は得意でしたね。

ーーその後、どのように美術の道に進んだのでしょうか?

佐藤さん:高校2年生のときに美大に行くことを目指し、美術専門の予備校に通い始めました。毎日、学校が終わってから夜10時ころまで予備校に通い、課題もたくさんこなすという生活を約2年間続けました。それでも美大に落ちてしまったんです。技術力と学力の2つのテストがあり、技術力はほぼ満点だったのに、学力がわずかに足りなくて。「絵がうまいだけじゃダメなんだ……」と、すごくショックを受けましたね。

ーー進路はどうしたのですか?

佐藤さん:飲食にも興味があったので調理の専門学校に通い、卒業後は飲食店で働きました。しかし、美術への想いが捨て切れず、仕事をしながらも絵は描き続けていました。そして、21歳のときにパリへ行ったんです。ビザの期限である3か月間滞在して、街を散策したり、スケッチしたりして3か月過ごしました。ルーブル美術館は毎週金曜日、26歳以下は入場無料になるので、通って模写を続けました。

ーーパリの滞在で何か感じたことはありますか?

佐藤さん:そのころは料理もしていましたが、「何で生きていこうか」と、すごく迷いを抱えていた時期でもあります。パリで3か月間暮らしてみて、「美術で生きていきたい」という思いを再確認しました。そこから、飲食の仕事をしながら、絵を描くことにも力を入れていきました。

ーーどんなテーマで作品作りをしているのでしょうか?

佐藤さん:“威圧的ではない作品”を意識しています。やさしく生活のなかに自然に溶け込むような、人の印象に残らないくらいのものがいいと思っているんです。絵のテーマとして、“人間が生まれてから死ぬまで”などの普遍的なものを選ぶことが多いです。現代人は役割や責任に縛られがちです。でも実は、おいしいものを味わい、家族や仲間と過ごし、日々を穏やかに生きることこそが、本当の幸せなのかもしれないという思いを作品に反映させています。

ーー佐藤さんが用いている、カゼインテンペラ技法についても教えてください。

佐藤さん:カゼインはチーズや牛乳に含まれるタンパク質の一種で、カゼインテンペラ技法は紀元前3000年頃の古代エジプトの時代からある古い技法です。しかし、その後扱いやすい油絵が登場し、衰退した歴史があります。カゼインテンペラ技法は文献もあまり残っておらず、いまだに詳細がよくわかっていないんです。カゼインテンペラ技法を使って作品作りをしている画家の武藤挺一氏に出会い、私もこの技法を使うようになりました。武藤氏と一緒にこの技法の可能性をいろいろと模索しました。

ーーカゼインテンペラ技法の特徴は何ですか?

佐藤さん:カゼインは接着剤としても使われていたことがあるくらい、乾燥や湿気にも強く、剥がれにくい特徴があります。まだまだわかっていないことも多い技法なので、今後も研究を続けていきます。

ーー佐藤さんは絵画の販売・レンタルだけではなく、個展もしていますよね。

佐藤さん:もともと個展をやりたいと思っていたわけではないんです。ただ、知り合いに外国の作家が多く、彼らが「日本人と一緒に個展をやりたい」と声をかけてくれたことがきっかけで、個展を開くようになりました。

私は画材の成分に詳しく、ときには自分で作ることもあります。それを知った外国の作家たちから「母国で使っていた画材が日本で手に入らない。代わりに何を使ったらいいか」と、アドバイスを求められることがありました。一つひとつ答えていたら、外国人アーティストとのつながりが増えていきましたね。

ヒアリングをしっかりして、その場所にないものを補う

ーーアートの販売・レンタルを始めたのはいつころでしょうか?

佐藤さん:ちょうどコロナ禍が始まる前くらいから「絵を飾りたい」という依頼が少しずつ来るようになり、きちんとホームページを作って形にしたのが2020年ごろです。

ーー販売とレンタルはどちらが先だったのでしょうか?

佐藤さん:販売です。もともと神話が好きで。ギリシャ神話のアテナという女神のシンボルがフクロウなのですが、練習のつもりでフクロウを描き始めました。すると、フクロウ好きな方が多いようで、よく売れたんです。フクロウの絵が販売のきっかけとなりました。

ーーレンタルを始めたきっかけは何ですか?

佐藤さん:ある日、自動車関連の会社の方と知り合ったのですが、その方が「オフィスの雰囲気が暗くて、なんとかしたい」と言っていて。絵を飾ることを提案してみたら、レンタルしてくれることになったんです。

ーー会社へのレンタルがきっかけだったのですね。

佐藤さん:私はもともと大きな絵を描くのが好きなんです。ただ、個人宅だと大きな絵を飾れるような広さはない場合が多いんですよね。対して、オフィスであればスペースに余裕があり、大きな絵もレンタルしてもらいやすいんです。とはいえ、企業でも買い取るのはハードルが高いので、レンタルの方が需要が高いですね。また、現在はサブスクサービスも展開しており、絵画の入れ替えも可能です。

ーー企業が絵をレンタルするのは、どんな理由が多いのでしょうか?

佐藤さん:“スタッフの労働環境をよりよくするため”という場合が多いですね。従業員のメンタルヘルスのケアの一環としてアートを利用してもらっているようです。

ーーオフィスではどんな場所にアートを飾ることが多いですか?

佐藤さん:従業員のみなさんの目につくところを提案しています。社長室のような特定の人しか入れない場所よりも、エントランスなどの多くの人が見られる場所がいいですね。天気の話をするように、絵がコミュニケーションのきっかけになったらいいと思います。

ーー貸し出す絵はどのように選んでいますか?

佐藤さん:会社のテーマカラーのようなものがあれば、そのイメージを壊さないよう意識しています。また、植物をたくさん置いている会社であれば、自然が描いてある絵は逆に避けることもあります。自然は置いてある植物に任せて、その場所に足りないものを絵で補うようなイメージです。会社の立地や環境などを細かく聞いて、状況に合わせて提案しています。

ーーオフィスに絵を飾る際に、注意していることはありますか?

佐藤さん:人はそれぞれ好みがあるので、極端なものは避けています。2つ以上レンタルしてくれる場合は、あえて全然違うものを入れることもありますね。たくさんの人に見られることを前提に考えています。

よりよいオフィス環境のためにアートの力を

ーー絵画の販売・レンタルを利用される方の個人と法人の割合はどれくらいですか?

佐藤さん:販売は個人と法人が半々で、レンタルは今のところ法人のみですね。

ーーレンタルをする流れについて教えてください。

佐藤さん:どのような絵画を借りたいか決まっていない方もいるので、まずはどこに飾りたいのかを聞いて、その場所に適したサイズやテーマを提案しています。購入する方は「こういうテーマの絵がほしい」と要望があらかじめ決まっている場合が多いですね。

ーーレンタルを利用した方からは、どのような声が聞かれますか?

佐藤さん:レンタル利用するのは、はじめてアートに触れる方が多いんです。そのため「絵具の部分に直接触れたらどうしよう」「大切に扱わなきゃ」という声をよく聞きますね。ちょっとした恐怖心が真っ先にくるようです。本物に触れることで、目の前の物を大切に扱おうという意識につながるなら、うれしいことですね。その結果、他の物や周囲の人への接し方にも変化があったらいいなと思います。

たとえば、部屋にお花を飾ったら毎朝花瓶の水を変えますよね。生活習慣が変わると思うんです。それと同じで、アートを飾ることは、生活に変化をもたらすきっかけになると思います。こまめに部屋を片付けるようになるなど単純なことでいいので、アートがちょっとしたリフレッシュや意識変化のきっかけになるといいですね。

ーー絵画レンタル事業で感じている課題はありますか?

佐藤さん:絵画レンタルは、もっと大きな会社が取り組んでいる事例がたくさんあるので、「アーティストが直接貸し出している」ことを強みに、私ならではの特色をもっと出していかなければと思っています。また、大きな絵を描くのが好きなので、今後はもっと大作を利用してもらえるようになりたいですね。他社は小さな作品を取り扱ってるところが多そうなので、大きな作品で差別化をはかっていきたいです。

ーーSUUTAに出品していただいておりますが、SUUTAに期待していることはありますか?

佐藤さん:SUUTAには、いろんなジャンルの出品があるので、掛け合わせて展示できるような仕組みができたらおもしろいと思います。たとえば、絵画と植物、絵画とソファのように部屋の模様替えを疑似体験できるような、他の出品物とコラボして見せられたらいいですね。

ーー最後に今後の展望を教えてください。

佐藤さん:絵画を活用した空間作りをしたいと考えています。飲食店やオフィスなどの課題を聞いて、心理学も活用しながら、お客様の悩みを解決するような空間作りをしたいです。空間作りのアイテムの一つに絵画があるようなイメージで取り組んでいきたいですね。

また、海外のアーティストとのつながりを活かして、彼らとコラボしてワークショップなどができたらいいなとも考えています。たとえば、オフィスで絵画をレンタルしてもらっている間に、海外アーティストの持つおもしろい考え方を活用して、ディスカッションをするとか。

ーーアーティストとのディスカッションとは、おもしろいですね。

佐藤さん:本屋さんで“アート思考”についての本をよく目にするように、アーティストの思考方法が注目を集めています。アーティストは、あえて真逆の発想をしてみたり、あらゆることに対して疑問を持ったり、別の角度から物事を考えるよう日頃から心がけているんです。そのため、アーティストと交流する時間を持つことで一般の方が刺激を受け、会社の問題解決のヒントを得ることや、考えを柔軟にするきっかけになるのではと思います。絵画のレンタルからさらに枠を広げて、“芸術”をもっと活用していけるよう、今後も活動していきます。

ーー佐藤さん、ありがとうございました。

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