近年、ユーザーの利用時間に応じて空間を貸し出す、レンタルスペース業が注目を集めています。レンタルスペースを利用するメリットは、必要なときに必要な広さの空間を確保できる点です。打ち合わせやワークショップなどのビジネスシーンから、ダンスの練習や誕生日パーティなどの個人利用までさまざまな用途で使われています。
また、施設のセキュリティを強化することで無人での運営も可能なため、副業の選択肢の1つとして捉えている人も多いといいます。
今回訪れたのは、都会の便利さと豊かな緑地を併せ持つ東京都・三鷹市。JR中央本線・JR総武線に加え、東京メトロ東西線も利用できる交通利便性の高いこの街で『レンタルスタジオRin』を営むのは、笹澤建汰(ささざわ・けんた)さん、美聡(みさと)さんご夫妻です。レンタルスペース業を始めた経緯や、サービスにかける想いを伺いました。
INDEX
ーーまずは、レンタルスタジオRinの事業内容を教えてください。
建汰さん:東京都三鷹市と埼玉県さいたま市大宮区の2店舗でレンタルスタジオを営んでいます。実は僕たち夫婦は平日は会社員をしていまして、副業としてレンタルスタジオの運営を開始しました。2人で協力しながらお客様からのお問い合わせに対応したり、備品を補充したりしています。
ーー事業を開始した経緯を聞かせてください。
建汰さん:ダンサーの友人に、「実は都心でも、個人がダンスを練習できる場所ってなかなか見つからないんだよね」と話をされたことがきっかけでした。2012年度に中学校体育でダンスが義務教育化され、日本のダンス人口が急増したというデータを見たことがあったのですが、まさか10年ほど経った今も練習場所に困っている人がいるなんて思ってもみませんでした。最近、レンタルスタジオを取り扱うプラットフォームが増えてきて、漠然と場所も選びたい放題なイメージがあったからです。ですが、蓋を開けてみると十分な防音設備、好立地、低コストなど、便利な条件をすべて叶えているスペースは少なく……。「少数人で自由に利用できる駅近スペースに、実はもっと需要があるんじゃないか?」と考えました。
ーーいつごろスタジオのレンタルを開始したのでしょうか?
美聡さん:三鷹店が2023年の12月で、大宮店が2024年の10月です。
建汰さん:開業を検討しはじめたのは、まさにコロナ禍真っ只中のころでした。すでにスタジオ運営をされている方々に感染症対策など、たくさんのお話を聞いて回りました。
ーー最初は、物件探しから始めたのでしょうか?
建汰さん:はい。幸い三鷹店は1カ月くらいで見つかったのですが、2店舗目の大宮店を見つけるのには大変苦労しました。
美聡さん:テナント物件が掲載されているWEBサイト内を探しに探して、やっと契約できたんです。たしか、半年以上かかりましたね。
建汰さん:都心からアクセスの良い駅の近くにある、RC構造のテナントビルで、かつ、地下か1階が望ましいとなると、グッと選択肢が狭まるんです。さらに、見つかってもオーナーさんに許可をもらうのが難しくて……。実際、断られたことも何度かあります。
ーー三鷹店は比較的すんなり決まったとのことでしたが、決め手は何だったのでしょう?
美聡さん:三鷹市は、大人数で利用するような“大箱”は充実しているのですが、うちのような“小箱”が少ないんです。“小箱”は、使い方の自由度も高いですし、個人のお客様にもリーズナブルに提供できます。しかも、新宿駅から約15分ほどで来られる三鷹駅から徒歩3分という好立地なので、「やるなら、ここだ!」と感じました。
建汰さん:また、4階に位置していますが、テナントビルなのである程度音出しが可能な点もうれしいですね。ダンスの練習や着付けなどに便利な大型鏡を設置し、無料Wi-Fi、Bluetoothスピーカーなどの各種備品もご用意しています。キッチンスペースにはカーテンを設置しており、更衣室としても利用可能です。
ーーちなみに、音出しはどの程度可能なのでしょうか。
建汰さん:入口付近に配置している騒音計で、90デシベル以下でしたらOKです。90デシベルは、工場の中やカラオケ店の個室で感じる音量に相当します。ですが、お客様いわく、喋り声や掃除機の音だと瞬間的にではありますが、すぐこの数値に到達してしまうそうなんです。普通に喋っている今も、すでに60デシベル前後は出ています。なので、スピーカーで流す音楽の音量に関してのみ、90デシベル以下になるよう調節をお願いしています。
ーー自分たちが出している音量を数値で目視できれば、お客様も安心ですね。三鷹店を利用するのは、どのような方が多いですか?
建汰さん:20〜30代の女性に人気です。基本的には1〜4名の少人数での予約が多いですね。用途は、やはり鏡がありますので、ダンスの練習に使う方が多い印象です。そのほか、演劇・漫才などの練習やヨガレッスン、整体の施術を行う方もいます。SUUTAでは1時間利用と終日利用、計2種類のメニューを用意しています。終日利用は、ワークショップや施術など、人が頻繁に出入りするような催しをする方におすすめです。営業時間の前後に、備品の搬入・搬出の時間も十分に確保できますしね。また、公式ホームページを通じてご相談いただければ、定期でのご予約も可能です。希望に応じて、曜日指定、隔週など自由に設定していただけます。
ーースタジオのこだわりを教えてください。
建汰さん:借りる方にとっては一期一会の空間ですから、「清潔感があり、過ごしやすい空間づくり」を心がけています。
美聡さん:清潔感については、レビューでいずれも良い評価をいただいていて、うれしい限りです。清掃は専門の方にお願いしていて、週1回必ず行います。清掃員さんたちも、私たちの大切な事業パートナーです。みなさんが「バランスボールの空気が少し抜けていました」とか「清掃前に使っていたお客様がこんなことを仰っていました」とか、現場の様子をこと細かに伝えてくれるおかげで、素早く要望に応えることができるんです。
建汰さん:過ごしやすい空間づくりは、お客様と二人三脚で行っていけたらいいなと考えています。たとえば、今敷いてある木目調のフローリングは、白を基調としたこの空間に温かみを足したくて、2人で張りなおしたんです。「清潔感があるけれど、長くいるとちょっと緊張する」という声があったので。
美聡さん:床のリノベーションをして、細かな部分も色を統一したら、予約数がグッと増えましたし、レビューにもうれしい書き込みが増えましたね。こんな風に、お客様の声を直に聞けるのも、スタジオ運営の醍醐味なんです。
ーーそのほか、お客様の要望を取り入れて工夫された点があればお聞かせください。
美聡さん:長く利用してくれているお客様から、加湿器やヨガボール、視線避けのカーテンを置いたらどうかとご提案をいただき、導入しました。ご要望をいただいたらすぐに反映するようにしています。
建汰さん:スタジオを定期利用しているお客様が毎回使う大きな道具を、ベランダに据え置きできるようにしたこともありました。このように、個人的な要望にもできるだけ柔軟に対応するようにしています。次にまた予約していただいたときに「使いやすくなったよ!」と言ってもらえたらうれしいですしね。
美聡さん:お客様が必要だと教えてくれたものについては、この先もどんどん取り入れていきたいです。
ーーレンタルの流れを教えてください。
建汰さん:SUUTAでは、商品ページから直接、希望の日時を選択できます。公式サイト経由では、最初にLINEの友だち登録をし、予約メニューからレンタルするかたちになりますね。当日は、事前にお伝えする番号を使ってキーボックスを開け、鍵を取り出して中に入ります。利用後は、備え付けの掃除機などで軽く清掃をしていただいたのち、施錠をして退出いただきます。
ーー開錠から施錠まで、お客様だけで完結できるんですね。
建汰さん:完全無人での運営になりますが、公式LINEでは鍵の開け方動画などを用意し、わかりにくい部分のフォローをしています。室内でも張り紙で備品の使い方を詳しく説明していますので、安心してご利用いただけます。
ーー今後、どのようなレンタルスタジオとして運営していきたいですか?
美聡さん:個人のお客様が、自分のやりたいことを気軽にできる空間でありたいと考えています。また、店舗を持たない個人事業主の方にとっても、レンタルスタジオが便利だということがもっと広まればいいなと思います。
建汰さん:それから、これからも継続して、お客様の声にしっかりと応えていきたいですね。長い付き合いのある方を除いて、大抵は利用説明のメッセージがお客様との最初で最後のやり取りになってしまうんです。なので、直接お問い合わせをいただいた際はもちろん、レビューにも一つひとつ真摯に向き合っていきたいと思います。
ーー現在、サービスについて課題に感じていることはありますか。
建汰さん:現在、公式ホームページ経由でも、利用できるのはクレジットカードとPayPayの2種類のみなので、決済方法の選択肢をもう少し充実させたいと思っています。もっと気軽に予約していただけるよう、工夫していきたいですね。
ーー最後に、レンタルスタジオRinの今後のビジネス展望を教えてください。
建汰さん:1都6県を中心に、少しずつ店舗を展開していきたいと思っています。他のエリアでも、やりたいことが十分にできていない方がいると思うので、便利な“小箱”を増やしていきたいです。
美聡さん:「使い心地が良かったよ!」とか「もっとこうしたら良いんじゃない?」と、お客様からリアクションをいただけるのがすごくうれしいんです。これからも、みなさんの声に応えながら、柔軟なスタジオ運営をしていきたいです。
ーー笹澤建汰さん、美聡さん、ありがとうございました。