パチンコは、実は“認知機能の低下を予防する効果につながる”と言われていることをご存知でしょうか。
名古屋の老舗パチンコメーカー・豊丸産業株式会社は、パチンコが持つ認知機能の低下の予防の可能性に着目し、高齢者向けのパチンコ台を独自に開発、全国の福祉施設に導入しています。“パチンコと福祉”という意外性のある組み合わせですが、福祉業界の課題を解決する多くのメリットがあると言います。
豊丸産業の未来事業本部・販売統括部長の亀井 裕人(かめい・ひろと)さん、事業開発部長の岡本 浩之(おかもと・ひろゆき)さんに、福祉業界に参入した背景や新商品開発の工夫や成果などについてお話を伺いました。
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販売統括部長の亀井 裕人さん(右)と事業開発部長の岡本 浩之さん(左)
ーー貴社の事業内容を教えてください。
亀井さん:弊社は、創業65年を迎える名古屋の老舗パチンコメーカーです。王道のパチンコ台だけではなく、独創的なものを得意としていて、たとえばタレントの江頭2:50さんや高須クリニックさんとコラボレーションした台などがあります。さらに、福祉業界にも参入しており、高齢者向けのパチンコ台の開発をしています。
ーー福祉業界に参入したきっかけは何ですか?
亀井さん:もともと弊社の社長が、福祉関連やボランティア活動に興味を持っていました。あるとき、知り合いの福祉施設のオーナーから「この業界は娯楽が少ないんだよね」と聞いたそうです。パチンコを楽しむ高齢者の方も多いですし、私たちにできることがあるのではと考え、“音の静かなパチンコ台”の開発に取りかかりました。2013年に現在の未来事業本部の前身となる新規事業準備室を立ち上げ、2014年に福祉施設向けレクリエーション機器『トレパチ!』を発表しました。
福祉施設向けレクリエーション機器『トレパチ!』。見た目は通常のパチンコ台と変わらない
ーー社長の声から始まった事業なんですね。福祉業界に参入するという話を聞いて、社員の反応はいかがでしたか?
亀井さん:まったく違う業界なので、みんな驚きました。でも、社長から「いずれ自分たちも福祉施設にお世話になるときがくる。自分たちが入って楽しいと思える施設を作るんだ、という心構えで挑戦してほしい」と言われ、納得しました。
ーー『未来事業本部』の名前の由来を教えてください。
岡本さん:パチンコ事業は「1年後にはこういうものが流行るだろう」という短期的な目線で戦略を組んでいます。しかし、福祉事業は10年、20年先まで見据える必要があります。未来のことまで考えて課題解決に取り組んでいく必要があるため、「未来事業本部」と名付けました。名前に引っ張られ、私たちも先を見据えることを意識するようになりました。
ーー『トレパチ!』以外にも開発した商品があるそうですね。
亀井さん:2017年に、卓上テーブル型の『元気はつらつトレパチ!!テーブル』を発売しました。『トレパチ!』を導入していくなかで、施設の方々から「パチンコ以外のレクリエーション機器がほしい」というご要望と、「施設にはあまりスペースの余裕がない」という課題を聞いていました。食卓テーブルはどの施設にも必ず置いてあるので、テーブルをレクリエーション機器にしたらどうか、と考えて開発したんです。
ーーインベーダーゲームに似ていますね。
亀井さん:その通りです。弊社の隣に古い喫茶店があり、卓上型の麻雀ゲームが置いてあるんです。近くの工場で働く方たちが休み時間に来て遊んでいるのを見て、それを真似れば高齢者の方々に喜んでもらえるのではないか、と考案して開発に至りました。
足漕ぎペダルはワイヤレスで『トレパチ!』と連動できる
ーー『トレパチ!』の特徴について詳しく教えてください。
亀井さん:『トレパチ!』の最大の特徴は、パチンコ台と運動器具が連動している点です。福祉施設では運動嫌いな利用者が多いという課題もありました。それならば、運動しながらパチンコができれば問題が解決するのではないかと考え、足漕ぎペダルとパチンコ台が連動するように開発しました。
ーーペダルを漕ぐことでパチンコができるんですね。
亀井さん:足が不自由な方だったら手で動かせますし、リモコンでの操作もできるので寝たきりの方にもご利用いただけます。どんな方にも使っていただけるように開発しました。パチンコ台として利用するだけでなく、運動と連動させるところに価値を感じて購入してくれる施設が多いですね。足漕ぎペダルはオプション品ですが、7~8割のお客様が一緒に導入しています。
ーー『トレパチ!』の開発でほかに工夫した点はありますか?
岡本さん:福祉施設に導入するので、安全面にも配慮しました。誤飲防止のためにパチンコ玉が出てこないようになっているうえ、もたれかかっても倒れない設計になっています。そして、安全対策だけではなく、いろんな方に楽しんでいただけるような工夫もしています。通常、パチンコは当たると玉が出てきますが、『トレパチ!』はカードが出るようにしました。このカード自体で遊ぶこともできますし、施設によっては「カードを何枚か集めたら、何かと交換できる」という使い方をしているところもあります。カードをコレクションすることを楽しんでくれている方もいるようです。パチンコ台だけではなく、さらなる遊びの付加価値を提供することも意識しています。
玉のかわりに出てくるカードは、さまざまな遊びに活用できる
ーー『トレパチ!』1台で、いろんな楽しみ方ができるんですね。ほかに、『トレパチ!』を使うメリットはありますか?
亀井さん:多くの福祉施設が設けているレクリエーションは、基本的に団体で取り組むものです。しかし、なかには団体に打ち解けられない方もいます。そのような方をレクリエーション中放っておくのも気がかりですが、かといって、付きっきりになるわけにもいきません。そんなときに、『トレパチ!』のような個人でも遊べるものがあれば施設、利用者どちらも楽しくて快適な時間を過ごせます。また、健康を気にかけているものの運動することに対して気が乗らない人もいます。その点、『トレパチ!』は運動しながらパチンコを楽しめるので一石二鳥です。『トレパチ!』で遊んでいると次第に下半身が強化されていくので、健康寿命が伸びて、結果的にスタッフの方々の負担を減らすことにもつながるのではと考えています。
ーー福祉施設の方は、どういったきっかけで『トレパチ!』を導入する場合が多いのでしょうか?
亀井さん:展示会に出展した際に、『トレパチ!』を知ってもらうこともあります。また、利用者の方から「パチンコがしたい」という要望を受けて、インターネット検索をして見つけてもらうことも多いです。おかげさまで、全国300ヵ所の施設に導入していただいています。平均導入台数は1.7台ですが、大型施設だと6台導入している例もあるんです。
ーー施設のどのような場所に設置されているのでしょうか?
亀井さん:共有スペースや、レクリエーションルームに設置してもらっています。とある施設では、入口に『トレパチ!』を設置していました。送迎バスの待ち時間でイライラしてしまう利用者のために、入口に『トレパチ!』を置いたそうです。「『トレパチ!』を導入してからイライラしなくなった」と、スタッフも喜んでいました。
ーートラブルがあった際は、どのように対応しているのでしょうか?
亀井さん:300施設に導入した事例があるので、成功事例とノウハウを提供しています。そのうえで、各施設で対応できないトラブルが発生した場合、行ける範囲内であれば当日中に伺って対応しています。未来事業本部のメンバーが行けない場合でも、パチンコ事業の営業担当は全国にいるので、素早い対応が可能です。
ーー『トレパチ!』を導入したお客様の印象的なエピソードはありますか?
亀井さん:ある施設に、何もせず、ずっとポツンと一人でいる利用者がおり、スタッフもどうしたらいいか困っていたそうです。その方に何かしたいことはあるかと尋ねると「パチンコがしたい」と言うので、『トレパチ!』を導入。すると、毎日足漕ぎペダルを使いながら遊ぶようになったそうです。その方は足のむくみがひどく、通院していましたが、むくみも解消され病院に付き添う必要もなくなり、本人もスタッフも喜んでくれました。
ーー福祉事業に参入して、どんな部分にやりがいを感じますか?
亀井さん:未来事業本部では、他の部署よりも実際に施設で利用者に使ってもらっている様子を見る機会が多いんです。利用者が楽しんで笑顔になっている様子を間近で見ると、「世の中の役に立っている」という実感が持てますね。いろんな施設に行く機会がありますが、寂しそうにしている高齢者の方々を目にすることもあります。そんなときに、私たちのツールを導入してもらえばお役に立てているという実感が持てるので、やりがいを感じています。
ーーSUUTAに期待していることはありますか?
亀井さん:福祉業界は、カラオケ機器などのさまざまな福祉用具をレンタルで賄っていることが多いんです。そういう意味ではレンタルの文化が根付いた業界だといえます。そのため、今後はレンタルに力を入れていきたいです(『トレパチ!』は、現在リースと販売のみ。2024年12月時点)。SUUTAでも、福祉関連商品の取り扱いが広がっていくことを期待しています。
ーー最後に、今後の目標を教えてください。
亀井さん:福祉業界のレクリエーション不足は10年前から今も状況があまり変わっておらず、カラオケもしくは介護スタッフの方のアイデアでカバーしているような状態です。手作りのもので遊ぶという文化が根付いていますが、福祉業界は深刻な人材不足の問題も抱えています。人力に頼っていた部分が補い切れなくなり、レクリエーション自体がままならない状態になる危険性もあるのです。『トレパチ!』を導入することは、レクリエーションの効率を上げることに貢献できます。
また、福祉業界のレクリエーションをますます盛り上げていくためにも、最近は『本気のレク』と書いて『マジレク』というキャッチフレーズを使って広報活動をしています。『本気レク(マジレク)』を文化にするためには、私たちだけでは力不足です。たとえば他のレクリエーション機器メーカーや施設、その利用者など、多くの方を巻き込んで、福祉業界のレクリエーションを盛り上げていきたいと思っています。
ーー亀井さん、岡本さん、ありがとうございました。
豊丸産業株式会社