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2025.01.31
SUUTAマガジン編集部

“立ったまま寝る”と集中力回復!? 仮眠ボックス『giraffenap』の開発秘話とは

記憶の定着や、仕事・スポーツなどのパフォーマンスアップにもつながるといわれている睡眠。なかでも夜の睡眠とは別に取る15〜20分の“仮眠”は、疲労回復や集中力向上などの効果があるとされ、注目を集めています。

ただ、効果があるといわれても、昼休憩にオフィスのデスクや休憩室で仮眠を取るのは難しいですよね……。周りの目が気になったり、睡眠時の姿勢が悪いと体を痛めたり、快適な睡眠環境とはほど遠い場合がほとんどではないでしょうか。

そんな仮眠に対する問題を解決してくれるのが、広葉樹合板株式会社が開発した『giraffenap(ジラフナップ)』です。今回は広葉樹合板の代表・山口 裕也(やまぐち・ひろなり)さんに、giraffenapの開発ストーリーやメリット、目指す未来をお聞きしました。

INDEX

立ったまま最高の休息を取れる『giraffenap』

――仮眠ができるボックスgiraffenapがどのような商品か教えてください。

山口さん:giraffenapは「Sleep Well While Standing 立ったまま最高の休息を」というコンセプトのもと作られた仮眠ボックスです。キリンが立ったまま短時間睡眠することから“ジラフ”と、コーネル大学の社会心理学者ジェームスマース氏の造語であり“昼寝”を意味する“パワーナップ”を合わせて『ジラフナップ』というネーミングにしました。

和のテイストを感じる『フォレスト』と近未来タイプの『スペーシア』の2種類があり、どちらも立ったままの姿勢で仮眠を取れます。

左:『フォレスト』/右:『スペーシア』

――どのように体を支えるのでしょうか?

山口さん:足裏・膝すね・お尻・アームの4点で体を支える仕様です。まず、足を乗せると、その段階で膝すねの位置が決まります。続いて、右側壁面についているボタンを操作して、座面の高さや角度を調整します。さらに、アームレストを倒して、腕を置く高さを合わせます。4点を調整することで、自分にフィットする仮眠スペースが完成するのです。

4点で支えることに加え、自分の体に合った高さに調節ができるため、さまざまな体形の方にフィットします。

giraffenapで仮眠を取っている様子

――実際に入ってみると、想像以上の安定感があります。

山口さん:体重を分散させることで体の力を抜きやすく、安心して仮眠ができます。重力と水平ではなくあえて垂直の状態で寝ることで、深い眠りに入ることはありません。そのため「寝過ぎて頭がぼーっとする」ということがなく、すぐに作業へ復帰できるのです。水平に寝ているときよりも腰への負担がないのも特徴ですね。

――仮眠にはどんな効果があるのでしょうか。

山口さん:仮眠には、疲労回復やストレス軽減、集中力の向上、記憶力や認知力、発想力、創造性の向上など、さまざまな効果があることが明らかになっています。NASAの研究によれば、パイロットが26分仮眠を取ったところ、パフォーマンスと注意力が34%、反応時間は16%改善されたという結果が出ているそうです。宇宙飛行士に対しても、昼寝を義務付けているのだとか。

――世界的にも昼寝や仮眠が注目されているのですね。

山口さん:仮眠を積極的に取ることで、生産性やクリエィティビティに良い影響を与えることがわかってきているんです。その効果は夜の睡眠の3倍ともいわれ、仮眠を推奨している世界的企業も多くあります。そんな背景を受け、2023年に開発したのが本商品です。

“睡眠不足大国・日本”を“立って寝る”で解決したい

――どのようなきっかけで開発がスタートしたのですか?

山口さん:2021年に行われた北洋銀行主催の『知財ビジネスマッチング』というイベントに参加したことがきっかけです。大企業が持っている休眠特許を北海道の中小企業に紹介するイベントなのですが、株式会社イトーキとの面談で『立って寝るボックス』を紹介されました。それを聞いた瞬間「世界初の“立って寝る”ユニークな商品開発をしてみたい!」という強い思いがこみ上げてきたんです。

それ以前、2019年ごろから「日本が先進国のなかでも睡眠不足大国である」という話がメディアで語られるようになっていました。また、OECDが2021年に行った調査では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分という結果が。これは加盟国の平均睡眠時間を1時間以上も下回る数値であるうえ、OECD加盟国のなかでは最も低い数値なんです。そんな日本の実情を受け開発を決心しました。

――開発はすぐにスタートしましたか?

山口さん:株式会社イトーキとのお話のあと、開発担当者さんと面談を行い、ライセンスの詳細などの説明を受けました。さらに知財部の方と会い、契約についての打合せを何度も行ってから、2022年7月14日付でライセンス契約を締結しました。開発はそこからです。

――そこから2023年の発表まで1年の期間がかかったのですね。最初に作ったのはスペーシアだと聞きました。

山口さん:スペーシアから開発をはじめましたが、なにしろ世界で初めての試み。快適と安全の確保が第一優先です。試行錯誤しながら構造体の選定を行いました。初期段階では木枠を組み、模型を使用してさまざまな体勢で実験し、その後、スチール柱を使用して構造体を組み、現在の商品のベースができました。さらに、体を支えるアジャスト機能を搭載するため、いくつもの模型を作っては試すを繰り返しましたね。

――単に体を支えるだけではダメなんですね。

山口さん:立ったまま入眠した際、倒れてケガをしてしまってはいけません。眠った状態でも体がしっかりとホールドされていることが重要です。そのうえで、快適さも欠かせません。試作を何度も繰り返し、ようやく立ったまま寝られる構造を確立しました。

giraffenapのスペーシア内部

意匠の異なるスペーシアとフォレスト

ーーデザインや構造に関しての工夫を教えてください。

山口さん:ライセンス契約時、株式会社イトーキからCGで描いた仮眠ボックスのイメージを提示されました。それが近未来的で、まるでロケットのような姿だったんです。そのCGが、翌日には国内はもちろん世界中に拡散し大きな話題になりました。それを受けて「近未来的なデザインに寄せなければいけない!」と考えましたね。

さらに、搬入や設置スペースを考えると、現場まで持ち運び・組み立てられる構造にする必要がありました。そのため、パーツを細分化した“ノックダウン構造”を採用しました。また、可動式ブース扱いになるため、設置場所によっては消防署に申請をする必要があったんです。その特例条件を満たすため不燃材の選定も必要になりました。模型を持って何度も消防署へ足を運びました。

――販売までたくさんの苦労があったんですね。

山口さん:スペーシアの最終的なデザインはミッドセンチュリー時代のデザイナー、バックミンスター・フラーによる『ジオデジック・ドーム』の形をベースに設計しています。12面体のユニークなデザインを外観に施し、近未来をイメージした製品になりました。表面には不燃剤を用いることで、消防法の特例条例を満たしています。

――技術面でのこだわりはありますか?

山口さん:ライセンス契約の数日後、報道を見た北海道大学電子科学研究所ナノ構造物性研究の石橋晃教授から連絡がありました。石橋教授から紹介してもらったのが『高清浄環境システム(CUSP-GEM)』というクリーンルームを作る特許です。従来は空気を取り込むときに、塵やほこりなども一緒に取り込んでしまい、徐々に室内環境が悪化してしまうという欠点がありました。CUSP-GEMを組み込むことにより、ボックス内の二酸化炭素をガス交換膜を通して酸素と入れ替え、同時に塵粒子を急速に減少できます。

――仮眠にもいい影響があるのですか?

山口さん:北海道大学と台湾国立成功大学と3機関での共同研究を行ったところ、被験者は「睡眠段階2(軽い寝息をたてる程度の睡眠状態)」の状態を長くキープし、熟睡しすぎない、仮眠に最適な状態を維持することがわかりました。この研究結果をIEEE GCCE国際会議(電気・電子技術に関する世界最大の学会による国際会議)にて発表し、採択されました。この技術を活かしたのがフォレストです。

フォレスト製作にあたり、本体を不織布で覆わなくてはいけませんでした。そのため、外観の構造をゼロから開発する必要があったのです。フォレストは、隙間を開けて羽板を並べたルーバーの構造になっています。

――フォレストの近くに行くと、木のいい香りがします!

山口さん:もともと合板の卸や加工を行っていることを活かし、国産材をふんだんに利用しています。デザインも京都の町屋や日本庭園を思わせる、和の空間に調和する雰囲気に仕上げました。さらに、環境へも配慮し、再利用可能な設計になっています。

万博への出展も決定!さらに仮眠の効果を伝えていく

――どのような場所に導入されていますか?

山口さん:さまざま企業に導入されていますが、最近は病院に設置し医療従事者の方向けの設備としても注目されています。とくに、夜勤時の仮眠スペースとして、看護師さんの疲労やメンタルの回復に期待できます。メディアで取り上げられることも多く、テレビ東京『カンブリア宮殿』などでも紹介してもらいました。

――お客様からの感想はどのようなものがありますか?

山口さん:ビジネスに関する展示会などで展示を行ったときには「思っていたよりも大きい」と言われましたね(笑)。ただ、実際に入ってみると「想像以上にいい!」との声をもらうことが多いです。仮眠を取るだけではなく、アームレストにノートPCを置いて作業もできます。ボックス内にはコンセントがあるのでスマホの充電も可能です。現在も継続して改良を行い、快適に過ごせる空間を常に目指しています。

――今後の目標や展望はありますか?

山口さん:2024年から、北海道のふるさと納税の返礼品としても採用されました。さらに、来年開催される『EXPO 2025 大阪・関西万博』にも出展が決定しています。さまざまな機会を通しgiraffenapを利用してもらい、みなさんのパフォーマンス向上のきっかけになりたいですね。

――ありがとうございました!

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giraffenap FOREST

giraffenap SPACIA

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