100年ぶりのオリンピック開催となったパリ2024の興奮が冷めやらぬフランス。ファッションを中心としたカルチャーの発信源である首都・パリを中心に、シェアリングサービス先進国であることをご存じですか?
外国人の訪問数が世界一のパリで最も普及しているシェアリングサービスが“ライドシェア”です。アメリカ・サンフランシスコ発祥の「Uber」の他、フランス発のライドシェアサービスも誕生しているその実情を、フランスのシェアリングエコノミーの動向と共に紹介します。
観光先進国フランスの首都はメトロ(地下鉄)を中心に公共機関の交通網が発達しています。反面、自動車大国でもあるフランスは、パリなど大都市の交通量は東京に負けず劣らずの凄さ。公共機関が発達しているのにも関わらず、交通量の多さにはパリ市民ならずとも辟易してしまいます。
この由々しき渋滞問題を解消すべく、パリ市はこれまでさまざまな施策を打ってきました。なかでも電動キックボードのレンタルはサービス開始以来、パリ市民の足として発展。利用客も右肩上がりで急増してきました。
しかし、2023年4月、電動キックボードレンタルサービスの是非を問う住民投票が実施された結果、電動キックボードのレンタルの全面禁止を支持した割合は89%となり、同年9月1日から禁止されることに。その背景には交通ルールそっちのけで歩道を走ったり、転んだり、ぶつかって歩行者を転倒させたりするなどのトラブルが後を立たなかったことが要因として挙げられます。
渋滞緩和が期待された電動キックボードのレンタルサービスが姿を消したことで、再び注目を集めているのがライドシェアサービスです。実はアメリカ・サンフランシスコ発祥の「Uber」のビジネスプランは、創業者がかつて訪問したパリでタクシーがなかなかつかまらなかった体験から着想を得て誕生しました。
その縁もあってか、「Uber」の海外進出はパリからスタート。海外初の研究開発拠点を同市に設置し、ドローンタクシーの研究もパリで進んでいます。
このように、アメリカ発の「Uber」が台頭するなか、近年はフランス発のライドシェアサービスが登場。なかでも人気を集めている代表的なサービスの特徴をひも解いてみましょう。
公共交通機関が発達しているパリですが、メトロの駅にエスカレーターやエレベーターがない駅も多く、地上に出るまで長い階段を上り下りすることが多々あります。また、面積が世田谷区2つほどのパリは観光名所がコンパクトにまとまっており、メトロやバスよりも自転車を利用する方が効率よく回ることができます。
このような実情や渋滞緩和の施策として誕生したのが、2007年にパリ市がサービスを開始した「Velib(ヴェリブ)」です。市内に約1,400のドッキングポイントがあり、24時間365日、低料金で利用できることからたちまちパリ市民の間で定着。レンタル料金は30分1ユーロからあり、利用頻度によって複数のサブスクリプションを選択することができます(2024年8月現在)。
フランスはストライキが多発する国として知られており、ストライキ期間中はメトロや電車、バスまでもが一斉に止まることがあります。「Velib」の普及はそんなお国事情も関係しているのかもしれませんね。
SNSでの利用者の声
■Velib
フランスの魅力はパリだけではありません。ドイツの国境近くのコルマール地方や、ノルマンディー地方にある世界遺産モン・サン=ミシェルに向かうには、レンタカーがあると便利です。でも、海外でレンタカーを利用するには言葉の壁があり、手続きに不安を感じるツーリストは少なくないのでは?
そんな不安を解消してくれるのが、レンタカーサービスの「Virtuo(バーチュオ)」です。日本のカーシェアリングサービス「タイムズカー」をイメージすればわかりやすいでしょう。
従来のレンタカーサービスとの大きな違いは、事前予約から返却までスマホアプリで完結することです。アプリで予約をしたら、当日は画面に従って貸出手続きを行い、無人で貸出・返却。ネット予約や事前決済、保険の追加加入の押し売りなど、従来のレンタカーサービスでありがちな煩わしいやりとりが一切ない「Virtuo」は、料金も大手レンタカー会社より割安で、予約時に車種が確定する安心感があります。変更とキャンセルは予約の24時間前まで可能で、予約内容の変更もスマホから簡単に手続きができます。
2016年にスタートアップでパリに誕生した「Virtuo」は、現在、ドイツ、スペイン、イタリア、ポルトガル、イギリスでもサービスを展開しています。
SNSでの利用者の声
■Virtuo
比較的短い距離の移動手段がお得なVirtuoと共に、近年話題を集めているのが、駐車場シェアサービス「Zenpark(ゼンパーク)」です。パリ市内を中心に駐車場を貸したい所有者と、探しているドライバーをアプリでマッチングするシステムとなっており、1時間1ユーロから利用できます。
自動車大国のパリの駐車場はほぼ、路上駐車。古い街ゆえに日本のような大規模な地下設備は少なく、地下と建物の中の駐車場の数が限られているのがその理由です。結果、押し出されたクルマは路上にぎっしりと並ぶことに。
ほぼ隙間なく縦列駐車された車を傷つけることなく出すのは至難の業。駐車場シェアサービス「Zenpark」があれば安心して駐車できますね。
■Zenpark
さまざまなライドシェアサービスがあるフランスのなかでも、急成長を遂げているのが、中長距離のライドシェアサービス「BlaBlaCar(ブラブラカー)」です。パリ郊外の各地方を結ぶRER(郊外列車)や、TGV(高速列車)、レンタカーよりも安価で移動できることが人気の理由です。「BlaBlaCar」は運転手と利用者でガソリン代や高速代を割り勘するイメージなので、Uberとは一線を画すサービスとなっているのがポイント。
でも、いくらリーズナブルとはいえ、知らない人との相乗りには抵抗がありますよね。実はフランス人は日本人同様、知らない人の車に乗って旅をするといった未知な状況に対し、「不安だから十分に検討しよう」という思考が働く傾向にあるとされています。
そこで「BlaBlaCar」では、事前に運転手と利用者の“嗜好”を提示できるようにサービスを改善。例えば、「おしゃべりが好きか」という項目を3段階から設定することで、静かに利用したい人、おしゃべりを楽しみたい人をグループ分けすることができます。この他にも車での喫煙やペットと同乗、音楽をかけることを許容できるかなどを設定できます。
SNSでの利用者の声
■BlaBlaCar
ここまで、ライドシェアサービスをピックアップしてきましたが、最後に、美食の都・パリならではのシェアリングサービスを紹介しましょう。
フランスのスタートアップが開発したアプリ「Meal Canteen(ミールキャンティーン)」は、情報の力でフードロス問題にアプローチしているサービスです。2018年のサービス開始以来、現在1万人の登録者・15社とのパートナーシップを結んでいます。
「Meal Canteen」の最大の特徴は、その場でメニューを決める学生食堂や社員食堂をメインターゲットにしていることです。アプリを使って食堂でもレストランのように利用者が食べたいメニューの事前予約ができ、食堂側はユーザーが予約した情報に基づいて調理するため、フードロスを防ぐことができます。
「Meal Canteen」のアプリには原料の原産地や調理方法、栄養成分・アレルギー物質などの情報が掲載されており、利用者が自身の“食べられる”メニューのみを選択することによって、食べ残しを減らすことができます。また、利用者による5段階の満足度評価を参考に、食堂はメニューの開発や改善につなげられることも大きな特徴です。
SNSでの利用者の声
「BlaBlaCar」の急成長の背景に、嗜好の共有があるように、フランスは他人と共有することへの不安を、情報量でカバーする傾向にあります。だれが、どんなサービスを、どのような意図で、いくらで提供するのかという細かい情報をオープンにしたり、専門家のお墨付きをもらったりするマーケティング上の工夫は、フランスのシェアリング業界では欠かせないと言えるでしょう。
その結果、信頼性の高いサービスが残り、倫理観や安全への意識が問題視された電動キックボードのレンタルサービスは淘汰されました。未知のサービスの利用に二の足を踏みがちなフランスの文化のなかで発展するシェアリングサービスこそが、ニーズを的確に捉えたサービスと言えるのかもしれませんね。
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