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2024.08.15
おだりょうこ

行政が主導する韓国・ソウルのシェアリングエコノミー。広がる共有経済の概念【世界のシェアリングエコノミーに学ぶ・韓国編】

世界中で広がりを見せているシェアリングエコノミー。日本のお隣、韓国ではどうでしょう。実は首都・ソウルは政府主導型のシェアリングシティであることをご存じですか?

政府が積極的にインフラ整備やスタートアップへの出資を行うソウルでは、シェアリングインフラの拡大をはじめ、新規シェアリングエコノミー事業の育成、遊休公共資源の活用などにより、すべてのソウル市民にシェアリングエコノミーを提供する政策に取り組んでいます。

さまざま分野のシェアリングエコノミーが拡大傾向にあるソウルの実情を紹介します。

政府が主導するシェアリングシティ韓国・ソウル

世界の主要な大都市のひとつ、韓国・ソウルは、「シェアリングシティ」先進国です。今でこそ、その地位を確立しているソウルですが、かつての韓国は、“シェアリング”という共有経済の概念はそれほど浸透していませんでした。

 

そのソウルをシェアリングのモデル都市に一気に押し上げたのが、2012年9月にソウル市イノベーション局が立ち上げた「シェアリングシティプロジェクト」です。「共有都市・ソウル」を宣言以降、政府が積極的にインフラ整備やスタートアップ企業への出資を行っており、モノ、空間、スキルなどさまざま分野のシェアリングエコノミーが広がりを見せています。

都市課題を解決するシェアリングエコノミー

ソウル市が政府主導でシェアリングエコノミーに取り組んだ背景には、市が長年抱えてきた都市問題が関係しています。交通渋滞、環境問題、社会保障などさまざま都市問題に対し、シェアリングエコノミーが解決の糸口になることがその理由です。

 

例えば、カーシェアリングは市内約500ヶ所に1,000台近いカーシェアリングサービスを導入。服や本、家具などのモノのシェアの他、古民家をシェアハウスとして利用する空間のシェア、家事、アートなどのスキルのシェアといった多彩なサービスが展開されています。

また、庁舎など公共施設の会議室や駐車場を業務時間外や休日に市民に解放する施策も進めています。

 

こうしてみると、急速な都市化と産業化によって失われたコミュニティの再生こそが、ソウル市が目指すシェアリングシティのあり方なのかもしれません。ソウルで人気のシェアリングサービスから、その実情をひも解いてみましょう。

韓国・ソウルのライドシェアは自転車が主流

カーシェアリングはソウル市でも年々拡大していますが、近年、注目されているのが自転車のシェアサービスです。渋滞や環境、健康促進を目的に2015年にサービスを開始した自転車のレンタルサービス「タンルイ」の会員数は350万人(2024年現在)。これは、ソウル市民の3人に1人が利用している計算になります。

 

SNSでの利用者の声

・ソウル市のローカルエリアでは、区民だけが使えるレンタサイクルもあり、カーシェアよりも利用客が増えているように感じる

・1時間1,000ウォン(日本円で約110円)という手軽さがうれしい

・貸出から返却までアプリで完結する手軽さが魅力

13歳以上なら旅行者でも利用可能

「タンルイ」の魅力はソウル市民に限らず、13歳以上ならだれでも利用できることです。外国人観光客もスマートフォン用アプリを通じて簡単にレンタルや返却ができます。運転免許を必要とせず、国籍を問わずだれでも利用できる自転車のレンタルサービスは、ソウル市民のみならず、観光客の移動手段としても定着しつつあります。

 

■タンルイ

https://www.bikeseoul.com/

子育て世代に大人気!行政サービス「おもちゃ図書館」

次に紹介するのはソウル市が運営するシェアリングサービス「おもちゃ図書館」です。おもちゃや育児用品などを、一家族2点まで、最大で3週間ほど借りることができます。年間費1万ウォン(日本円で約1,000円)とリーズナブルなため、多くの市民が利用。ソウル市在住であれば、外国籍の人でも利用可能というのも魅力です。

 

SNSでの利用者の声

・せっかく買ったのにすぐに飽きてしまうおもちゃ。何度も借りることができるので経済的にもとても助かっている

・近くにおもちゃ図書館がなくても、ホームページで申し込んだ後、 配送日を含めて3日以内に受け取りができるようになった

マンションの有料サービスにも。広がる子育て支援

おままごと用のキッチンセットや、乗りものなど、大型のおもちゃも充実している「おもちゃ図書館」。遠方の利用者には配送サービスもあります。「おもちゃ図書館」は行政サービスの他、分譲マンションの有料サービスとして提供しているケースも増えているようです。

スーツのシェアリングサービス「Open Closet」

スタートアップとして事業を開始して以来、年々利用者が増えているのがスーツのシェアリングサービスを展開する「Open Closet」です。

 

日本同様、韓国でも就活生はスーツに身を包んで面接に臨みますが、日本と大きく異なるのは、大学の授業料や家賃などを自分で支払っている学生が多いことです。そのため、就活のためのスーツの購入は学生にとって大きな負担となっていました。しかも、ビジネスシーンのカジュアル化が進む韓国では就職後、スーツに袖を通すことは少なく、クローゼットの奥にしまったままという人が大半なのだとか。

 

そんな実情を受け、「Open Closet」では就活生などスーツを必要としている人と、着ることがないスーツを寄贈したい人を結ぶサービスを開始。現在までにソウル市長をはじめ、多くの著名人が賛同しており、実際にスーツを寄贈しています。

 

SNSでの利用者の声

・たった数回のためにスーツを買う必要がなくなったので、安心して就活に臨むことができた

・ネクタイの結び方など、スーツの着こなし方も教えてくれた

・寄贈した人からのメッセージが励みになった

 

2012年のサービス開始当時はスーツ10着ほどでしたが、現在は14,000着以上を保有しており、これまで20万人以上が利用。寄贈者は10,000人を超えています。レンタル料金は約1万ウォン(日本円で2,000円)から。最近では結婚式出席のために借りる人など、就活生以外の利用者も増えています。

寄贈者からのメッセージが励みになる

「Open Closet」が多くの若者に支持される理由はリーズナブルなことだけではありません。寄贈されたスーツにはメッセージが添えられており、利用者は必ず目を通します。自分が就活で苦労したこと、面接時のアドバイスなどが記されたメッセージを励みに、就活生はスーツと自信を得て就活に臨むことができるというわけですね。

 

■Open Closet

https://theopencloset.net/

“シェアリングはお得”。市民に浸透した共有経済の概念

シェアリングサービスに限らず、行政が主導となって新たなサービスを展開するには、市民の理解が必要不可欠です。共有経済の概念が希薄だったソウル市が、今や世界有数のシェアリングのモデルケースになるまでにその概念が浸透したのは、シェアリングを日常に取り入れることにお得感があり、日々の暮らしが良くなることの認知拡大に地道に取り組んだ結果と言えます。

 

急激な都市化による共同体意識の希薄化、過剰消費による資源の枯渇や環境破壊という都市の課題に対し、シェアリングを政策に取り入れることで課題解決を目指した韓国・ソウル市。今後の展開に目が離せません。

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